聞き方1
上司が部下に対して無意識に行っている「聞き方」こそが、組織の関係の質を下げ、部下の主体的な行動や本音を阻害している可能性があります。以前、私たちが「なぜ?」「どうして?」という詰問が「でも…」「だって…」を生む構造について探求したように、上司の権威(ポジションや経験)から発せられる言葉は、たとえ丁寧でも部下には断定的主張のように聞こえがちです。その結果、部下は上司が肯定的な意見しか求めていないと認知し、儀礼的丁寧さへと戻ってしまいます。
真の関係の質を高めるためには、部下が嘘のない素直な発言(本音)ができるよう、安心・安全な場づくりが不可欠です。この場を壊す最たるものが、上司の「良かれと思って」の介入です。
心理学者のトーマス・ゴードンは、人間関係を妨げる「12の障害」を提示しています。これらは、部下の抱える問題に対し、上司が親切心からその問題を解決しようとしたり、自分の枠組み(メンタルモデル)で判断を下すことで生じます。例えば、部下の話に質問したり突っ込んだりしないというチェックインのルールがあるように、部下が話している最中に上司が発する尋問や解決策のアドバイスは、彼らの内省と探求の機会を奪います。
もしあなたが、部下との対話で無意識に以下のような「やってはいけない聞き方」を3つ以上行っているなら、それは部下との間に**「恐れと不安」の壁を作り、彼らの主体性を奪っているかもしれません。まずは「相手の話をありのままに聴く」姿勢、そして「その背景には何があるんだろう?それを一緒に考えよう」という探求の姿勢**を持つことが、健全な組織への第一歩です。
これまで私たちが探求してきたように、上司の「聞き方」は、部下の本音や主体性を即座に奪い、組織に儀礼的丁寧さ を蔓延させてしまいます。特に上司の権威 から発せられる言葉は、意図せずとも部下には断定的な主張 として響き、彼らが思考し、行動する機会を奪います。
心理学者のトーマス・ゴードンが提唱する、人間関係を妨げるコミュニケーションの障害は、職場では無意識の「介入」として現れます。これらの聞き方は、部下の持つ問題に対し、上司が親切心から「解決してあげよう」としたり、自分の枠組みで「判断を下す」ことで、部下の内省と探求 の機会を奪います。
あなたが普段、部下との対話で以下のような「やってはいけない聞き方」を3つ以上行っているなら、それは部下との間に「恐れと不安」の壁を作り、組織の関係の質を蝕んでいるかもしれません。まずは対話の場を安心・安全** なものにするため、ご自身の聞き方をチェックしてみましょう。
上司がやってはいけない。11の聞き方チェックリスト
以下の会話例に無意識に心当たりがないかチェックしてください。
| # | 上司の「聞き方」:リアルな会話例 | 部下が心の中で感じること |
| 1 | 「君が担当なんだから、明日までにこのレポートを仕上げるように。異論は認めない。」 | (決定事項を押し付けられた。私の意見や状況は関係ないんだ。) |
| 2 | 「このミスはすぐに解決しないと、今後の君の評価に響くよ。」 | (圧力をかけられた。失敗したら罰せられる。不安で逃げたい。) |
| 3 | 「プロなら最後まで責任を持つのが当然だ。言い訳は聞きたくない。」 | (正論でねじ伏せられた。私の苦労や背景は理解されない。) |
| 4 | 「考えすぎるな。**とりあえずA案で進めたらどうだ?**そうすれば早く終わる。」 | (話を聞いてほしいのに。自分で考える機会を奪われた。) |
| 5 | 「いや、君のやり方より私の経験上、これがベストだ。成功する方を選べ。」 | (どうせ上司の意見が絶対。これ以上主張しても無駄だ。) |
| 6 | 「結局、君の準備不足が原因じゃないか。もっと細部まで詰めておくべきだった。」 | (詰問されている。反論したいが、関係が悪くなるのが怖い。) |
| 7 | 「君はいつも問題が起きると逃げ腰になるね。自信がないんだろう。」 | (私の人格を決めつけられた。どうせわかってもらえない。) |
| 8 | 「またですか?さすが**『遅延の常習犯』**だね。どうせ間に合わないんでしょ。」 | (馬鹿にされた。プライドが傷つく。もう何も話したくない。) |
| 9 | 「まあ、大丈夫だよ、心配ないって。そのうち状況は好転するさ。」 | (真剣な悩みを軽く扱われた。この人に頼っても無意味だ。) |
| 10 | 「で?いつからその状況なんだ?誰に相談した?具体的な数字は?」 | (尋問されて息苦しい。整理して話す時間も与えられない。) |
| 11 | 「大変そうだね。まあ、君はビールでも飲んで忘れなさい。で、週末のゴルフの話だけど…」 | (問題をうやむやにされた。結局、本音は聞きたくないのか。) |
今回チェックした「やってはいけない聞き方」を一つでも減らすことが、部下の「本気のコミットメント」*を引き出し、組織を成功循環へと導くための最重要ステップです。次回の記事では、これらのコミュニケーションの裏側にある「12の障害」の具体的な心理的メカニズムと、部下の主体性を最大限に引き出す「共感的な聴き方」の技術を深掘りしていきましょう。